石見での体験型アート作品個展「石ころ花の発見」
展示記録2021.11.26
島根県温泉津町にある「湯里まちづくりセンター」で、2021年11月11〜14日に行ったPonboks(ポンボックス)個展について書きます。
自主制作展としては、2015年にきみーさん(カヤック所属時の同僚)とつくった「そうぞうの遊び展」や、2020年に行ったものづくりユニットKATAKOTOとの二組展「TWO POCKET」がありますが、個展としてははじめての開催になりました。
SNSで動画投稿したり、展示イベントへの出展は行っていましたが、自主企画という形は久しぶりで、今後につながる経験があったので、文章に残しておこうと思います。
開催について
展示会の主催は「芸術による石見地域の活性化」を目指すイワミアーツプロジェクトです。
石見は、島根県西部の地域のことを指します。過疎化の著しい石見地域にて、芸術イベントを継続して行うことで少しずつ拡大し、様々なジャンルのアーティストが集う「総合芸術祭」の開催、地域を盛り上げることを目指しています。
第一弾イベントは2020年1月、「プレビュー公演」として演劇ワークショップと演劇公演を実施。2021年、第二弾となる今回は、劇団晴天さんによる「演劇ワークショップ」とPonboksの「体験型アート展」の開催、という形になりました。
当時まだ作品制作を始めたばかりの2年半ほど前にイワミアーツプロジェクト発起人の竹内さんにTwitter経由でお声掛けいただき、コロナの影響による1年の延期を経て(本来は昨年11月に行う予定だった)、今年ようやくの開催になりました。
作品展タイトルとコンセプト
本作品展は100%自主企画というわけではなく、イワミアーツプロジェクトとのコラボ開催による個展です。
今回プロジェクトに関わるまで、僕自身は一度も石見地域にも島根県にも足を踏み入れたことがありませんでしたが、自分なりに石見のことを調査したり、お話をうかがい、現地視察しながら考察し、石見で開催することに寄り添った作品展のコンセプトを構成していきました。
イワミアーツプロジェクトの目的は、一言でいうと「芸術による石見地域の活性化」です。過疎化した地域に見つける文化的な魅力や、隠れたユニークな能力に光を当てていきたいという思いがあります。
そんな石見に宿る様々な可能性や、それを開花させたいというイワミアーツプロジェクトの思い、Ponboksが制作キーワードとしている「発想体験」、技術と演出による不思議体験が持ち味の体験型アート作品たちを「石ころ花(いしころばな)」という空想植物で例え、観る人に様々な「発見」が生まれるような作品展を目指しました。
会場入口に設置した、作品展全体の導入となるストーリーパネル。
展示タイトルとビジュアルにも、いくつかの「石見」を込めました。
– 展示タイトル「石ころ花の発見」
最初の文字「石」と、最後の文字「見」をくっつけると「石見」に!
– ビジュルアルの背景は石切り場がモデル
ビジュアルの背景は石見を代表する福光石の石切り場がモデル。テクスチャも福光石(お土産で購入できるコースター)から作っています。
– 「石見神楽」般若の角
ビジュアル絵の中心に位置する石ころ花は、石見神楽面の角をモチーフにしています。
展示作品について
展示実績ありの1作品+新作3の計4つの作品を展示しました。新作を一度に3つとなるとなかなか大変なのですが、昨年から今年の夏にかけて行っていた実験制作活動から作品化したので、なんとか形にすることができました。
入場前に検温、人が触れる箇所はアルコール消毒するなど、感染症対策も配慮しつつ実施しています。
作品展コンセプトに沿った4つを展示しました。
会場に設置した4作品のキャプション。キーワードはそれぞれ「興味」「可能性」「言葉」「彩り」の石ころ花です。
展示紹介①「黒猫クロス」
人を見つけると、体を動かしたりしゃがんだりジャンプしたりしても、こっちを見てくる黒猫たち。両手を上げると目が赤くなって威嚇してきます。黒猫と目を合わせているとわかりませんが、よーく見ると黒猫たちの横顔がそれぞれ違うのもポイント。観賞者と黒猫たちの視線・興味が交差するインタラクティブ作品です(動画をみる)
正面から見ただけではわからない相手の持つ隠れた魅力や変わった側面が色々な角度から見ることで現れる様子、島根県民と東京を中心に活躍する芸術家が交わり活動していく様子、イワミアーツプロジェクトと重なるストーリーを持った作品です。
展示紹介②「ユビサキに咲く」
壁面に手をかざして動かすと万華鏡のように描かれて花が咲きます。どのように描いても花になるのでとにかく手を動かすだけで楽しめます。長時間夢中になって遊んでくれる子も多く、可能性を感じる初展示となりました(動画をみる)
始まったばかりでまだ小さなプロジェクトですが、活動していくことで少しずつ可能性を広げているイワミアーツプロジェクトと、体験者の描いた花で広がっていく花畑を重ね、この作品を選びました。
展示紹介③「ハッケンペイント」
神楽のお面に光の絵付け。手元で描くとプロジェクションマッピングで本物のお面にも描かれていきます。石見地域で盛んな伝統芸能「石見神楽」を、現代的な技術「バーチャルペイント」が彩る作品です。お面は小林工房さんによる絵付け前の本物の石見神楽面です(動画をみる)
絵付けの枠を越えて自由に描かれる様子をみて、伝統芸能の表現拡張の試みになったと実感できました。
体験者により様々な絵付けの神楽面が生まれました。
展示紹介④「kotonoha」
穴に向かって言葉を吹きこむと文字になって歩き出します。言う言葉によって頭に花がついたり空を羽ばたいたりと姿を変える演出も。久しぶりの展示だったのですが、相変わらず好評で楽しんでもらうことができました(動画をみる)
言葉が形になって動きを始めるこの作品のように、イワミアーツプロジェクトの思いも具現化していくといいなと思います。
展示インストールについて
旧小学校校舎が会場ということで、美術館などの展示施設と違いあらかじめ用意されたものがないので、設置には試行錯誤しました。外光が入ってこないような暗室づくりであったり、天吊が難しい天井でのプロジェクター設置であったり、余計なものをできる限り省いた展示空間づくりであったり、プロジェクトの皆さんに協力してもらって展示インストールを行いました。
計画資料の一部。3Dシミュレーションをしながらプロジェクターを選定したり、壁面パネル等のサイズを検討したりしました。
黒猫たちが乗っているところは音楽室のグランドピアノを活用、テレビをはずしてもらい残った棒にセンサーを取り付けるなど、会場に合わせて展示方法を考えながら設置しました。
思ったこと
会期中ずっとお客さんの反応に触れていたので、作品を体験してもらうことの嬉しさを思い出すことができました。苦労した制作時間も、お客さんが楽しんでくれている姿を見ると報われるなと。また、現地の子供やお年寄りなど普段届けることが難しい人たちに実際に体験して楽しんでもらえると、色々な場所で展示活動することの意味を感じることができます。
動画投稿したSNS発表の時と比べて実際に体験してもらうと反応がいまいちだったり、逆にSNSでうまく伝わらなかったものが体験してもらうととても好反応だったりします。人生経験の長い大人にとっては目新しくないものも子供にとっては新鮮であったり、知識がある大人だからこその驚きがあったり、夢中になれる子供だからこそ遊び方が発展していったりと、発表場所や客層による違いもあらためて感じました。
また、中学生以下の入場料を無料にしていたこともあってか、子ども向けイベントと思われてしまっていた印象があります。子供が中心になってしまうと、大人が楽しみづらくなってしまうので、広い世代に楽しんでもらうためには、展覧会の構成や、ビジュアルデザイン、アテンド方法等、バランスを考えて制作していく必要性を感じました。
はじめての個展(4作品)、楽しんでくれている姿を見てるとつくった甲斐があったなと思ったり、準備中には1人では乗り切れない難しさを感じたりと色々でした。イワミアーツプロジェクトをはじめ設営撤収や運営スタッフとしてご一緒いただいた皆さん大大感謝!少しでも石見のためになっていたらいいなと思います。
もっとたくさんの人に作品に触れてもらうため、来年以降、都市圏や他の地域でも作品展を開催していけるよう動いていきたいです。
がんばるぞー